沼南(しょうなん)ラジオ工作室 工作日誌 2023年 ”3月31日”

 エレキー「カツミ MK−1024」の修理 
症状は「符号が突然支離滅裂&メッセージメモリ機能停止」

===(1) 動作の現状確認(MK−1024)===
 
      


↑ 到着した3台目のMK−1024、長年使い込まれた歴史がケースに感じられる。 (写真) はじめは正常に動いているように見えたが、


2022年の12月、3エリアの某OMから、「調子よく快適に使っていると、急に長点と短点のバランスが悪くなってキーイングが支離滅裂になってしまう」というMK−1024の修理の相談を受けた。

今回も「修理失敗して壊れても良いので」とのお言葉に意を強くし引き受けてしまう。そして、その本体が到着したところ。

電源スイッチを押して動作確認するが、この時点では動作は正常だったが・・・。




 エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理


===(2)「中味を開ける前にボリウムのガリを確かめる」===
        


↑数分経過して症状まだ確認できず。VR、スイッチ類を操作して変化を見る。


ボリウムのガリがあるか?___これまでのMK−1024修理の経験では、スピード調整のVRにガリがあると、動作中にそのVRを回転させると符号が乱れて動作が不安定になることがあった。

 今回はどうか?==>音量調整VRは回転すると「ガリガリ」と雑音が発生するが、速度調整のほうは、動作中に回しても符号が乱れることはない。速度調整のVRのガリが故障の原因ではないようだ。



 エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(3)スイッチオンから約10分、症状が現れた===
 支離滅裂な符号の実態は???
   
      


↑数分経過して症状が現れる。こんな具合に打鍵と違う符号が出てくる。


 打ったとおりの符号が出てこない。 「CQ CQ CQ」 と打つと、「XZ XZ XZ」と出てくる。 「JA1・・・」とやると、「UI2・・・」となる、という具合。
詳しく確認するために速度調整のVRを最低(目盛り5/m)にして符号「A」を打ってみると、 ←(ノートの)図のように、長点の長さが不安定、正確なAにならない。しかも最後の・は短でも長でもない中途半端な長さ。

 その他の符号も同様。たとえば、 W(・−−)が→U(・・−)に、 V(・・・−)が→H(・・・・)に、 K(−・−)が→D(−・・)4(・・・・−)が→5(・・・・・)

つまり短点の後に続く長点が正しい長点にならず、中途半端な短点になる。通常の短点の半分くらいの時もある。
 と、いうことで、この動作不良が始まると、打鍵とまったく違う符号が出てくることになる。



エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(4)符号が乱れ始めると同時にメモリー機能も停止===
   
      


←いよいよ症状出現。 ケースを開けて中味を見ていく。先ず目に入るのは2段重ねの基板。上側のメモリー基板から横に飛び出している電解コンデンサはMK−1024開封時のお馴染みの場面。今回は電源トランスとその周りにこびりついたほこりが目立つ。


 そして、エレキー機能にこの不具合が生じると同時にメッセージメモリー機能も働かなくなることが分かった。

さっきまで記憶させておいたメッセージは出ず、でたらめな符号が出てくる。

 当然、書き込み(Write)もA〜Dの各CHともできなくなる。打鍵してメッセージを書き込もうとしてメモリーボタンを押した後、左右どちらにレバーを押しても「ピーーーー」という信号音が出るだけ。

 長点が自動で出ないなら、AUTO/SEMIのスイッチを「SEMI」に切り替えて、エレバグ・キー状態にして手動で長点を出そうとしても、短点の長さが不揃いなので、やはりおかしな符号になってしまう。

 以上の症状から”問題箇所=患部”はエレキー基板とメッセージメモリ基板共に関わる部分とみて良い。

だが、それは何処か?そしてその原因は? 回路図を追うとともにケースを開けてまずは内部診断へ。


エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(5)打診で検査−−−叩くと一瞬回復===
   
      


↑ ケースを開けて、ドライバの柄であちこち叩く「打診から開始」。そのあとは、各部のクリーニングを試みる。


故障箇所診断はしょうなんラジオ工作室定番の打診から。  ドライバでケースやコネクタ部分をコンコン叩いてみる。と・・・、打撃を与えると一瞬回復。 だが、数秒〜10数秒程度でもとの異常な状態にもどってしまう。

 衝撃を与えると動作するということは、いずれかの場所の接触不良か断線しかかりとみて良い。 故障の根はそれほど深くはない? だがその場所の特定はこれからだ。

 2枚の基板の先端の固定ねじを外し、ソケットに差し込まれただけの状態でぐらぐらしているメモリー基板の先端に指をかけて少し持ち上げると、”一瞬”だけ回復する。コネクタ部の接触不良か? 

★アルコールでクリーニングを試みる=>基板を一旦ソケットから外し両面と端子部、コネクタ側もアルコールで掃除。 ・・・が、回復せず。

だが、その正常に戻ったその時は、前に書き込んであったメッセージメモリ内容は消えておらず生きていて正しく再生されることが分かった。

つまり、メッセージメモリ基板のメモリー回路部分は正常な状態のままで、動作不良の原因には関係してない。



エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

==(6)二つの機能の間をつなぐ部分は?===
回路図から”患部”に接近
   
      

↑ エレキー基板パターンに直に配線された7ピンコネクタを介してメモリー基板につながる部分



 回路図でエレキー基板とメモリー基板の二つの接点を探ると、メモリー基板の黄色い線で囲んだ部分で、その先はエレキー基板上のトランジスタ2石のクロック発振部につながる。

実物ではエレキー基板のパターン面に直接ハンダ付けされたリード線から7ピンコネクタを介してメモリ基板のスロットソケットのピンに次のようにつながっている。

エレキー「52」<======>メモリー「119」
エレキー「51」<======>メモリー「120」
エレキー「53」<======>メモリー「121」

そして、メモリー基板側のピンにつながる所にあるのは「U9:SN7402」だ。この周辺の接触不良をあたってみることに。


エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

==(7)二つの機能の間をつなぐ部分は?===
現物ではエレキー基板面から出ている7ピンケーブル
 
      

↑ エレキー基板パターンに直に配線された7ピンコネクタを介してメモリー基板につながる



 エレキー基板のクロック発振部分に直に配線されたリード線の行く先がメモリー基板上の「U9:SN7402」。

コネクタの接触不良やリード線の行く先の断線しかかりを疑ってみたが、残念ながら異常がなかった。

引き続きあちこちコンコン叩きながら”患部”探しを続ける。


エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(8)メモリー基板を”ぎゅーっ”と、つかむと・・・===
その間だけ、正常に動作する
 
      

↑ メッセージメモリー基板パターンに力を加えている間は完全復旧する。・・・ということは・・↓


★コネクタも接続リード線の束も接触不良や断線しかかりもなさそうだ。患部はやはり基板本体か? 部品を間近に見るため目を近づけ、リード線の束が付いたままのメモリー基板を握る指に力をこめると・・、 正常な符号が出る。

 おや? 指の力を抜き、手の平に乗せたままにすると、動作不良。また指に力を入れた指で基板両側をぎゅ〜っと握ると、正常

 試しに基板全体をひねったり曲げたりしてみる。=> その都度、正常になる。

 間違いない。ようやくメモリー基板上の配線パターンか部品のハンダ付け不良らしいことがはっきりしてきた。では基板の何処???=>そこには怪しいとにらんでいたIC「U9=SN7402」がある。


エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

==(9)メモリー基板上U9(SN7402)のピンハンダ劣化?==
各ピンのパターン面を再ハンダ
 
      

↑ 示しているのがエレキー基板上のSN7402。ピンが黒く、くすんでいる。他のICも同様だ。



怪しいとにらんでいたIC「U9=SN7402」が目の前に。「やはりこれなのか?」機械的な歪みで症状が変わるということは、問題はIC自体ではなくハンダ付けの接触不良か。

基板の部品面から見る各ピンは黒く、くすんでいる。パターン面のほうもハンダの中から飛び出して見えているピンの先端が同じく黒く、くすんでいる。いそいで再ハンダだ! さっそくU9のピンにハンダごてを当てて再ハンダ。すると、
直った。動作安定。

 メッセージメモリの機能も正常。「再ハンダ付け」だけで正常動作して安定に。
そのままエレキー操作、メッセージ・ライト/リード操作を繰り返し連続するが、正常動作を続ける。直ったようだ。

修理開始からあちこち叩きまくり、3日目にしてようやく回復。
 その後1日、動作連続させて問題が生じないことを確認し、さらに実際の交信にも使うことで動作を確認し修理完了とした。


エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(10)動作不良の発生原因を考える===
熱によるハンタ付けの劣化?
 
      

↑ 電源安定化用2SC1096の放熱羽根がSN7402にほとんどくっついている。


故障はどのようにして発生したのか、動作不良が生じた原因を考えてみると・・・・。

   問題のU9の部分を改めて観察すると、写真のように直ぐとなりに安定化電源回路の放熱羽根きのトランジスタ、2SC1096が乗っていて、その基板にネジ止めされた放熱羽根はU9にぴったり寄り添って今にも触れそうになっている。

テスト中もトランジスタと放熱板はかなりの熱を発していた。指を乗せると「アチチッ!」という感じで基板のその周囲も熱を帯びている。

U9はこの熱に長年晒され続けた結果、プリントパターンとICピンの間のハンダ付けの劣化が生じてしまったのではないか。




エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

===(11)ハンダ付け劣化の発生===
もう一つ、気になったのは・・・。
 
      

↑ 今回のメモリー基板(左)と1回目の修理の時のモメリー基板(右)。ハンダ付けの様子



ハンダ付けの差もあるのか?==>もう一つ気になった事がある。同じメモリー基板だが、今回のメモリー基板の写真(左)と1回目に修理したときのメモリー基板写真(右)の、同じU9の部分のハンタ面を見比べてみて気が付いた。

黄色の丸で囲んだ部分が問題のU9(SN7402)の配線部分なのだが、1回目のはいわゆる富士山型のきれいなハンダ。今回のは気のせいかギザギザ、ゴツゴツしているように見える。ほかのICのハンダ付けも同様だ。

特に常に直近からの熱に曝され続ける場所だけに、ハンダの仕上げも関係しているのではないか? と、そんな気もするのだが・・・。




エレキー「カツミ MK−1024」”符号支離滅裂”の修理

==(12)打診、触診で探りあてた故障個所だった==
3台めのMK−1024修理で学習
   
      

↑ 回路図から各部の働き、信号の流れを考察したり、叩いたり捻ったりによる状態変化は修理の度に蓄積される


MK-1024の修理はこれで3回目だが、1回目、2回目とも違った症状で、新たな学習の場になった。

今回の故障は、エレキーとメッセージメモリーの動作が同時におかしくなるという症状。

回路図から二つの機能の接点となる部分メッセージメモリ基板上のIC(SN7402)の周りを疑ったものの、コネクタやリード線の接触不良や断線のしかかりを疑い、テスタで導通を測ったり、押したり叩いたりを続けてしまった。

「患部」だった基板上のICピンのハンダ不良(接触不良)も基板に力を加えることで判明。結局今回は回路解析ではなく力まかせの「打診」による解決になったのだが、順序として時間を経た基板回路だけに、まず基板のハンダ付け劣化を調べるべきだったことを反省。

  とはいえ、試行錯誤の無手勝流ながら修理の過程は毎回楽しい思考の時間。研究ノートに記した日誌には今後に役立つ情報を加えることができた。 少し気になるのは熱い基板上で再び同じような症状が現れないかということ・・・。 よき学習の機会をいただいた3エリアのOM、Fさんに感謝! ありがとうございました。

この修理記録ご覧いただいた ユーザー、F_OMから現在のMK1024、きわめて健康で快適に動作している旨の連絡をいだだきました。ありがとうございます。ほっとしました。末永く活用されることを願っております。





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