沼南(しょうなん)ラジオ工作室 工作日誌 2022年 ”6月3日”
 エレキー「カツミ MK−1024」修理その2 「Keying回路の修理」
=== カツミ エレキー(MK−1024) Keying回路の修理=
その1=「無線機のキーが働かない」
        


←エレキー機能は働いているが、無線機のキーイングができないMK−1024

2022年5月某日メールにてMK−1024の修理について問い合わせが入ってきた。 症状はエレキーの信号発生はできるけれど無線機につなぐとキーイングができないとのこと。

  キー駆動部の故障ならば、なんとか自分でも直せるかもしれない、と、引き受けた今回の修理。

 現物が到着する前にキー駆動回路部分のトランジスタ、リレーなど関連ありそうな部品の目処をつけていたら本日(5月11日水曜日)件のエレキーが取り扱い説明書とともに届いた。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その2= 「動作状態を確認」====
Keying以外の動作を確認すると 
 
        



←MK−1024の背面。外部KEYのネジ端子の横にKEY操作にリレー/TRの切替スライドスイッチがあるのだが

ACプラグをコンセントに差し込み、スイッチONしてパドル操作してみる。モニター音のVRにガリはあるけれどオート、セミオートの正常動作を確認。

前回の同じMK−1024修理の時、さんざんてこずったメッセージ・メモリー機能もA〜D各チャンネルへの書き込み、読み出しもOK。  ただ、メモリー再生中やキーイング操作しながらスピード調整のVRを回転すると符号が乱れる。これも速度調整VRのガリが原因と思われるので本題の修理作業が終わったら交換することにする。

 肝心の故障個所、外部キー駆動回路は?後部の「KEYING」スライド・スイッチを「RELAY」にしてパドルを操作。モニター音は聞こえるが、キー駆動部のリレーは動かず、外部キー用ネジ端子にテスタをつないでも全く導通なくもちろんTRスイッチでも同じく動作しない。

 ということで、予め聞いていたとおりKEY駆動回路(Keying回路)は全く動作していないことを確認し、修理作業の段階へと進む。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その3=上蓋を外し、内部を探る= 
4本のねじを外し、上蓋をとる 
 
        



← 2段スロットの上段には大きめの電解コンデンサが横に飛び出しているメッセージ・メモリー基板。 以前の修理のときも蓋をあけて初めに眼に飛び込んできたおなじみの姿。エレキー基板はその下に重ねられている。

 チェックポイントは「キー駆動回路部分」なのだが、今、ここで見えるそれらしき関連部品はリレーと出力端子裏のフィルタ部分のみ。

念のため、リレーコイルの導通をチェックするが断線はしてない。リレー端子に並列に接続しているダイオードは回路図に型番の記載はないけれどゲルマニウムのSD−34。
 



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その4=Keing回路を探して底蓋を外す、内部を探る= 

エレキー基板の部品面が顔を出す。その横に小基板が 
 
        



←  裏返して底フタを外す。エレキー基板の部品面が現れる。その横に小基板があるが、これはトーン発振部とそのアンプと見た

Keying回路自体は、やはりエレキー基板内部に乗っているもよう。それは事前に回路図を見れば分かったことだったのだが・・・。

エレキー基板の右にある黒い物体は9Pin(←7ピンでした)コネクタ/ソケット。メッセージメモリー基板との接続のために使用されている。このあと、エレキー基板をソケットから外した際、これも外すことになるだろう。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その5=回路図でKeying回路の内容を確認する= 

エレキー信号出力にオーディオ基板とキー駆動回路が接続されている 
 
        



▲ あらためてエレキー部の回路を見る。  パドル操作で生成された信号は7410(UNIT7)の6番ピンに出力されるが、そこに「トーン発振+アンプ」と「Keying」の二つの回路がつながっている。

黄色い線で囲んだところがKeying回路部分で、ケースに直に取付られたリレー、フィルタ、外部接続端子までの部分を除けば、基板上の部品はトランジスタ2本とCR類のみ。希望的観測ではトランジスタを交換するだけでOKとなるのではないか、、、? 、と、予測。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その6=基板をスロットから外し、まず目視チェック= 
キー駆動回路のTRは右下の部分に 
 
        


←重なる2枚の基板を固定しているネジを外し、メッセージメモリー基板を外し、その下にあるエレキー基板を取り出す。

 最初に眼にとまった小さいアルミの放熱板に挟まれたトランジスタ周辺は電源の整流と安定回路だった。 

 目的のKeying回路の位置を確認するべくTTL−IC以外の部品は、と眺めれば、写真右下のフィン付TRとその横の小粒のTRがそれだということは、すぐに判明。

TRはフィン付きが2SB546、小粒が2SC945。

患部? の位置が確認できたところで、早速はんだごてに手を伸ばす前に、、、。せっかくの機会なのでやっておきたいことが・・・。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その7=基板からパターン図面を作製 = 
  パターン上の部品と回路の関係を正確につかむために  
 
        


←基板上の部品交換に取り組む前に、この機会にプリントパターン図を作製した。

 以前行ったMK−1024の修理はメッセージメモリ基板上の問題個所は不明で、しかも両面パターンのため、回路動作の解析や部品交換作業上絶対必要だったのだけれど、今回は絶対必要になるものではない。

 故障個所はエレキー基板上でもKeying回路部分にあることはほぼ特定されている。  今回は、せっかくの機会であり、モノ作りの楽しみの一環としてのパターン図を作製することにした。  

 手法は全く古典的で、かつてラジオ雑誌編集者時代にさんざんやった、ほぼそのまま。基板写真をプリントした紙にトレーシングペーパを重ね、パターンをなぞって写し取り、そのあと実物の基板を表にしたりひっくり返ししながら部品記号をトレペのパターン上に書いていく。夜までかかって完成。


▼パターン上に部品記号を重ねて、、、    
 
        



回路図と作製したパターン図を比較対照しながらパターン上の部品をチェック→

 パターン図の紙の上に重ねたトレーシングぺーパーに部品記号を書き込み、そのままプリンタでコピーすると、1枚の絵になる。

回路図と現物をみくらべながら、取りあえず2本のTR周りのC、R、ダイオードの値を書き加えて、パターン上で回路を確定する。





=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その8=エレキー基板裏側の状態= 
        



←パターンに直接ハンダ付けされているビニール被覆線は9ピン(←× 7ピンでした)コネクタを介して上側スロット端子を経由してメッセージメモリ基板と接続されるようだ。

メッセージ・メモリは両面パターン基板だが、こちらは片面パターン基板。

 Keying回路の二つのトランジスタが付いている部分は溶けたフラックスでべとついているような感じ。使用中のTR温度上昇で熱せられ続けていたせいなのか?

あるいは、一度トランジスタ交換などの修理が行われたことがあるのか?

 いずれにせよ、まずこの2本のトランジスタを交換することになる。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その9=トランジスタ交換。945が破壊している!= 
        



←2SC945を間近に見ると・・・

トランジスタ交換は簡単に出来る2SC945からのつもりで再び基板を裏返し、よく見るとなんだかその2SC945の様子がおかしい。表、裏ひっくり返しながら基板パターンを追っている時は、うっかり見落としてたのだが、、、。

 割れて欠けている!。さらに目を近づけると、こんな状態で物理的に破壊されてしまっている。

 相当の電気ショックか熱ショックが加わったのだろう。三本のリードの基板根元に溶けたはんだが玉になっている。

通常、ケースの中で裏返しの状態で固定された基板なので相当の熱でパターン面で溶けたハンダがリード線を伝わって流れ落ちてきて固まったと見て取れる。



▼6JS6の”えくぼ”を思い出す・・・      
 
        



←MK−1024と直接関係はないのだが、破壊された2SC945を見ると、思い出すのが、、、。

 MK−1024の取り扱い説明書にも「注意」として、記されている。

TRスイッチを高圧のかかるキーイング回路(例えば真空管送信機のファイナルのカソードキーイング回路など)に挿入するとトランジスタが破壊されるので、リレースイッチで使用することといった記述。

この状態はまさしくその注意書きどおりのやっていけないことを長期に渡ってやった結果、じわじわトンジスタが傷み付けられた結果にちがいない。

  珍しいものを見た。かつて、真空管送信機のファイナル6JS6の胴体が「えくぼ」のように熱で凹んだことがあったのを思い出す。

 ともかく交換。手持ちに2SC945が無いので2SC1815に付け替えることにする。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その10=トランジスタ交換。イナバウアー状態で動作テスト= 
          


▲2SC945の代わりに2SC1815を

 パターン面はハンダ山盛りなので、「945」の脚を基板の上側に少し残して切り、それに2SC1815の脚を継ぎ足す。まずは動作を確認するための仮付けなので、こんなイナバウアーになっているのだが。

 結果は、動かなかったリレーが動作するようになり、リレー・スイッチによる無線機のキーイングはできるようになった。

しかし、トランジスタ・スイッチに切り換えると後部のネジ端子は導通しっぱなしになってしまう。大きいほうのTR、「2SB546」も交換しなければならない。

 ちなみに取り外した破壊945の三本脚のすべては無道通(断線状態)になっていた。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その11=TRスイッチのために、2SB546を交換= 
          


▲2SB546を新しいものに付け替える

TRスイッチの要となる2SB546は手もとに無く、互換品を探すことになるかと思ったのだが、秋葉原の若松通商に同じTRがあった。早速入手。

 「546」の取り替え。三本の脚をガッチリと固定しているパターン面の山盛り状態のハンダをハンダ吸い取り網を使って「溶かしては吸い取る」を繰り返し、ようやく取り外したが基板は焼けるように熱くなっている。

 外した「546」の各電極間をテスターで測ると全てショートしていて、完全にアウト。 新たな「546」に付け替えて、早速TRスイッチの動作を確認する。後部のキー端子間の導通をテスタで測ると、キー操作に従ってピクピクON/OFFをくり返す。

  これでTRスイッチによる無線機のキーイングもOKになった(と、その時は思った)。  イナバウアー状態だった2SC1815はこのあと、少し規格の大きい2SC2120を正しい直立姿勢にして付け変えた。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その12=ガリオームになったVRの交換= 

つまみの位置が飛び出ないように、軸長をノコギリカットで揃える 
 
        



 意外というか、予想通りというかトランジスタ交換で正常動作になり、あっさり問題解決した(と思った)ので、あとは仕上げのつもりで最初にガリが気になった2個の可変抵抗(VR)の交換を行う。

VRは前面パネルのモニター音量(10KΩ)と、スピード調整(20KΩ)の二つ。ともに手持ちの関係で数値は若干異なるのだが、ガリガリよりは良いのではないか、と判断して交換した。

軸の長さが合わずそのままだとパネル面からツマミがデコボコ飛び出してしまうので、2個とも軸をカットして体裁を繕う。  

これで、修理完了! ケース内部、パネル面をアルコールできれいに掃除。 最後に修理締めくくりとして念のため自分のトランシーバにつないで運用テストをしてみることにした。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その13=修理完了、念のためトランシーバにつないで使ってみようとしたら・・・= 
          


▲動作確認のつもりが、、。な、なんと、動作がおかしい!

●プラグ差し込むだけで送信状態
 後部KEYのネジ端子をテスタであたることでリレー、TR両方のスイッチによるキーイング動作を確認はしているが、念のため自分の無線機(FT−2000D)の正面パネルのKEYジャックに接続してみると、、、、TRスイッチの時、なんと! プラグを差し込んだ途端、キーイング操作もしていないのに、なにやら「ブルルルル」と、送信状態になってしまう(写真@)

 リレー・スイッチによるキーイングでは問題なく動作するのだが? TRスイッチは直っていなかったのか? 回路図を見直してみたものの、原因は分からない。トランシーバ側のKEY設定に問題があるのか、トランシーバの取説書を読むと、 縦型や複式KEY(ON/OFFのみのKEY)の場合、プラグは「3極」を使うこと。さもなくば連続送信になるとの記述。「なるほどこれか!」 早速3極プラグにするが、結果は同じで残念。

●再びケースを開けて・・・
・・・・修理完了のつもりできちんとねじ止めしたケースを開けて再び基板を取り出すハメになった。Keying回路だけの問題ではないのか? 2SB546のコレクタにつながるダイオード(D3)が後部パネルの6Pスライドスイッチ部にハンダ付けされているので、それを取り替えてみる。しかし結果は変わらず。もとのダイオードをテスタで調べるが正常だった。

 もはやこれまで、、、。リレー・スイッチは完璧動作するようになったので、それで納得していただくしかないか? 気落ちしながらあらためて基板をケースに戻し、ケースのネジも締め直して、FT−2000Dにつなぐ。プラグを差しこむ・・・。ブルルルルルと送信状態は変わらない。リレー・スイッチに切り換えれば正常動作する。TRスイッチに切り換えると、とたんにブルルルル送信状態。

●ところが・・・
 もはやこれまで。中途半端な結果で残念。プラグをゆっくり抜こうとしたとき、ブルルルルの送信が切れる。ためしにその状態でパドルに振れ、キー操作するときちんとキーイングができている。「エッ??」パドル操作にしたがい、綺麗にサイドトーンが響き、正常な送信状態になっているではないか(写真A)

 再びプラグを奥までグッと差し込むと、ブルルルルル。そして、、、、少し(5ミリぐらい)抜くと正常にキーイングできる!!。なお、写真Bの状態まで抜くと完全に無接続状態(OFF)になる。  何度くり返しても同じ。結局、プラグを少し浅めに差し込んだ所ならば正常に動作することが分かった。現象面で結果オーライということで、修理はこれで終わりとした。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その14=ともかく現象面では問題解決した= 
依頼主の手もとへ 
     
    



自分の無線機(FT2000D)のテストでは、「TRスイッチ使用時はプラグを5ミリぐらい抜く」という疑問点を残しながら、当初の、「キー(パドル)操作でトランシーバのKEY駆動が出来ない」という故障は解消した。

その理由が無線機のKEYジャック内部の電極との接触に関係するだけなのか、あるいは、TRスイッチ側にまだ問題が残っているのかの究明をはじめるといつまでかかるか分からない。

根本原因は不透明なものの、現象面では「ともかくTRスイッチでも動作」するようになったので、「TRスイッチの場合はプラグを少し抜くと動作した」のコメントを付けて依頼を受けたOMあて急ぎ返送させていただいた。いつまでも正常動作で使っていただけることを願いつつ。



=== カツミ エレキー(MK−1024)Keying回路の修理=
その15=TRスイッチを見直す学習の場になった= 
残された疑問解明・・ 
     
    



以前、MK−1024のメッセー・メモリ基板のトラブル修復に挑戦した時は、TTLの回路が分からず、各デバイスの学習から取り組むことになったのだが、今回のKeying回路は自分としては馴染んできたアナログ的な部分。正直、なんとかなると思った取り組みだったけれど、お得意の自己流対処療法では、現象面では修復したけれど、すっきりしない気分が残った。

いままでやってきた自作でON/OFF切替の部分は全てリレーを使うことにしてきた。それは接点容量さえ抑えておけば、あとはリレーをON/OFFすることさえ考えればそれで済むという気持からだった。 簡単便利ということであえてTRスイッチに取り組むことはなかった。

 ところが、MK−1024のKeying回路の修理にあたって、いやおうなくTRスイッチ回路を見直すことになった。

 これが自分の器機の修理だったら、破壊された2SC945を取り替えて、リレー・スイッチが動作した時点で、「これでよし!」と終えてしまい、そのあとのTRスイッチまで追求することはなかったことだろう。

この修理作業が、これまでリレー一辺倒だった自分に、TRスイッチの利用を考えさせてくれた。その意味で有意義な体験をすることができた。あとは、のこされた疑問、「プラグ5ミリ抜き」の意味解明をしていきたい。

このたび修理の機会をいただいた「K」OMに感謝。ありがとうございました。
2022年 6月4日


工作室に戻る  工作コーナーメニューに戻る